日本顎咬合学会北海道支部学術発表

日本顎咬合学会北海道支部学術発表
画像合成法を用いた疑似試適によるシェードマッチング

札幌の奥村歯研にて勤務しております、歯科技工士の小林洋平と申します。
宜しくお願い致します。
今回は、シェードのマッチングを向上させる為に、画像合成という方法を用いて
補綴物を作製し、良好な結果が得られた症例を報告いたします。

お話の流れといたしましては、何故画像合成を試みるに至ったのか、その経緯と
今回の症例の結果の方から見て頂いて、画像合成に必要な要件と実際の手順をお伝えし
まとめと致します。。

ではまず、色調再現に関する話題になった時に、様々、文献等で発表されているものの中には、陶材の築盛方法に関するものはもちろん、シェードテイク現場での見え方そのものを正確にPCモニターにいかに再現するか?
という点に注目したものが多く、
内容としては、
カラーマッチングツールの使用でモニターの色補正を行ったり、それを厳密に再現する為の高精細モニターの使用、カメラ自体のホワイトバランス調整など、こういった手法が多く紹介されています。
例えば、この通りに条件を整えたとして、誰もが見た通りの補綴物を作製できるのか?
といえばどうでしょうか?

シェードテイク現場での色調はこれらの方法によってモニターの中まで同じ情報になったとして、そこから先、実際に術者が、どの色の組み合わせでそれを再現するのか?

また、そのモニターと手元で作製しているクラウンの見え方は、日中見るのか、夜見るのか、その環境によって常に同じように見えるということは不可能です。

つまりは、モニターと手元のクラウンの見え方の差は『おそらくこういう色だろう』と想像するしかなく、なによりその色を確実に判断し再現することのできる、術者の経験であったり、感覚的なスキルを身に着けた上で初めて、有効な手法だといえます。

それでは、この経験やスキルの差をどうやって埋めることができるのか?を考えたときに、逆の流れで、作製したクラウンをラボで撮影し、シェードテイク画像内にそれを合成させ、疑似的に口腔内に試適した状態を確認できれば、ある程度の確信をもって仕上げられると思い、試し始めた次第です。

それでは、こちらが今回の症例、上顎右側1番をプレスセラミックスにて修復した症例になります。
支台歯にはファイバーコアが装着されています。シェードテイク時の画像です。

こちらが、合成に使用した画像で、左上がシェードテイク時の画像、右上がラボで撮影した補綴物の画像、中央下がPC上で疑似的に口腔内に合成、試適した画像です。
およそ、このような色調で口腔内に収まる予想を立てました。

結果、ある程度予想していたマッチングとなり、患者の満足も得られ、良好な結果を得ることができました。
では、この画像合成法の実際について紹介していきます。

合成の核となるシェードテイクについてですが、一応ポイントを押さえた、このようなパンフレットを用意しています。
色々細かくかいてあるようですが、一般的に言われている注意点と同様の内容が多いので、その中から一点だけ、

目標歯とシェードガイドは切縁を合わせて同一平面上に配置して、正面から撮影する、という点です。
右の写真のように合成する為には、出来るだけ同じ構図でラボ内で補綴物を撮影する必要があります。
正面からが一番、歯牙の全体像をつかみやすいですし、合成も楽になります。
この写真内でも使用していますが、シェードガイドを収めるガミーホルダーについて少し、

基本的に3本程度のシェードガイドを参考にしたいので、ガイドの保持がしやすい点と、シェードガイド単体のものと、ホルダーに入れたもの、どちらもA2のガイドですが、ホルダーに入れると歯頚部に歯肉色が反映され、やや赤みを帯びる事で、実際の口腔内の歯牙の環境に近いガイドとなるので、その点も優れています。

シェードガイドの選択については、目標歯のベースとなる内部のデンティン色を一番知りたいので、歯冠中央付近を見て、基本的にAのシェードの中から近いと感じるタブと、その前後の計3本を選択します。

ラボサイドでの補綴物の撮影では、口腔内の環境に近くなるように赤い背景の撮影スペースを用意しています。
下の図のように黒い背景だと、バックの黒を拾ってしまって、被写体の明度が下がります。両隣接歯のある模型に入れての撮影も同様の理由で、クラウン単独で撮影すると、両サイドも背景の影響を受けすぎてしまって、合成困難な画像になります。

以上の事をふまえて、シェードテイク画像と、同じ構図で撮影したラボでの画像、2つの画像を用意し、この2つを画像編集ソフトで合成してみます。
ラボ撮影模型側のシェードガイド半分と、クラウン部分を切り取り、口腔内画像にコピーします。

これをシェードガイドが重なる位置に移動させます。
重なり合ったシェードガイドを比較すると、張り付けた側のシェードガイドが少し暗くみえます。
シェードガイドの色を一致させるように、ラボ撮影側の画像のみに、画像補正をかける事で、間接的に口腔内の目標歯牙と手元の補綴物の色調がどの程度マッチするかを判断する、というわけです。

画像補正の項目は数多くあるのですが、基本的には『レベル補正』と『カラーバランス』という2との項目で補正します。
今回の画像はシェードテイクとラボでの撮影に使用したカメラが、同一機種のカメラを使用していますので、補正量は少なめで済みます。

それぞれの項目を簡単に紹介すると、『レベル補正』というのは、明度の調整をする機能で、画像の明るさの細かな調整に使用します。

また、『カラーバランス』については、色の混合比を変更する機能で、互いに色を打ち消しあう補色の関係性を調整します。

経験上は、3本の調整のバーのうち、上と下、シアン、レッドの関係性のバーと、イエロー、ブルーの組み合わせのバーのみを調整することがほとんどです。

では、この操作を実際、見ていただきたいと思います。

 ‐‐‐デモ‐‐‐

今、見て頂いた合成は最終段階の合成ですが、作製のステップごとに、撮影、合成を3回から4回、行い、そのつど色調にズレが無いか確認、修正を繰り返すことになります。

そして、最初にお見せしたように、ある程度のマッチングが得られた補綴物が装着されました。

㉑ 余談ですが、オールセラミックスでの補綴の場合は支台歯の色調の影響を受ける場合が多いので、支台歯も同様の合成方法で再現しています。

㉒ それでは画像合成法を用いた症例をいくつか紹介しつつ、まとめに入ります。

合成によって、結果を手元で判断できるということは、このような複雑な色調の歯牙であっても、思いついた色の組み合わせや、陶材の選択を失敗を恐れず試しやすく、経験値としての色調再現の引き出しが早く増やせることになります。

㉓ こういった正中離開に対する11間のノンプレップべニアに対しても、支台歯をしっかり再現しておくことで、合成法はマッチングの向上につながっています。

㉔ 誰でも簡単に色調が出せるといった、魔法のような方法ではありませんが、
  この手法を重ねることで、『色が合うだろうか?』という術者の精神的負担や、色に悩
  む時間の浪費を抑えると同時に、

㉕ 再制作等で、チームスタッフはもちろん、なにより患者への負担の軽減に繋がると考えます。

㉖ 今回の画像合成法のポイントとしては、
  シェードテイクとラボサイドで撮影の構図を一致させる、という点と
  必要に応じて支台歯も再現するという点、
  また、画像補正では複数回行わなくてはならない事から、出来るだけ単純で効果的な
  調整に努める、という点になります。

  まだまだ常に確実な結果をすべてにおいて得られている訳ではありませんが、考え方の方向性は自身に合っていると信じて、さらに研削を積んでいきたいと思います。

  ご清聴ありがとうございました。

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